
彼は両手に一本の剣を、背中には世界を背負っていた。
空は黒雲にまかれ苦しそうにしている。
赤く不気味な輝きが黒雲の間から覗く。
不気味な光は大地を照らし、そこから生まれた影からは無数の怪物が生まれてくる。
その彼に怪物たちの刃が届かぬよう……奴との一騎打ちの邪魔にならぬよう壁という名の俺はさえぎり続ける。
そして俺という壁が破られようとしたその時一筋の光が見えた。
影から生まれる何かは一匹たりとも消えうせ、鋭く突き刺すような光が当たり一面を包んでいた。
顔を上げると額に金色の額宛。そこから垂れる緑色のキレイな長髪は所々俺の血で染まっていた。
そして振り向いた俺の目先には――。
* * *
何も無い世界。強いて言うなら立つべき場所があるということ。
俺の目の前には金色の額宛に綺麗な緑色の女弓使いが居る。
その顔は少し寂しげな、でも喜びの笑顔があった。
そしてその周りには、左から黒装束の男と、民族衣装の男。
さらに後ろで宙に浮かんでいる、いかにもという格好をした魔法使いの男。
「さぁ……ここに貴方の本名を……」
それを言いつつ、俺の元へ伸びた彼女手には、少々黄ばんでいるボロボロの一枚の紙、ボロボロの枝。
この枝は何億年を超え魔力を得るまでになった大樹から取れたもので、その先は輝いていてこの輝きが、
ボロボロの一枚の紙。運命の書に永遠の文字を残す。
この世界は死後の世界。この世界にやってきた時、
自分の名前から何から何までの記憶を四賢者に全て取り上げられ
転職と共に記憶を少しずつ取り返す。
4次転職をして、ここにたどり着いたものだけが
自分の本当の名を手に入れる。
そして、自分が死んだ瞬間の運命をひっくり返す。生きていた事にする。
今俺は4次職。パラディンだ。戦士のページ系統の最終職。
ついさっき、記憶は全て取り返せた。
自分の名前を書くために与えられる最後の記憶。
そんなもの俺にとってどうでも良かった。
だから俺は俺では無い者の名前を書く。
それはメイプルアイランドの民家に預けられている自分の妹“桜”。
“織 桜”
そう書いた紙を女弓使い、鷹の目のヘレナに渡した。
ヘレナは俺の思惑どおり良く確認しないで賢者長、白雷のハインズに渡す。
ふむ、と声を漏らすハインズ。ふわふわと浮いたまま移動して
大地に描かれている十字架の紋章の中心の台の上に載せる。
それとあわせるように賢者達はそれぞれの位置につく。
北には民族衣装の男、竜滅却の拳を開いて立て。
東にはハインズ。南にはヘレナ。西には黒装束の男、暗鬼のダークロード。
それぞれの賢者の前に突き出された両腕からは莫大なマナが放たれている。
その向かう先は運命の書。
急にボウッと運命の書が燃え尽きた。
しかしいくら待っても俺は消えるはずが無い。
どうせ今“桜”が現世で一命を取り留めたに違いない。
異変に気がついたダークロードが黒の覆面の中から大声を発する。
「貴様! 何をしたぁ!!」
次々に怒りの視線が向けられる中、振り向くヘレナの顔はどことなく寂しそうだった。
ダークロードはいち早く俺の後ろに回りこむ。
そんなダークロードに俺は嘲笑の言葉をぶつける。
「流石の暗鬼ダークロード様だ。しかし、俺の罠にはまる程度」
ダークロードの額宛と覆面の間にある目が驚愕と言わんばかりに以上を察知し見開いた。
今奴の膝上までは氷付けになっているだろう。
氷と炎のスキルを使う。冷気と熱気で空気中の水分を露化させ、
服に水分を付着させ、冷気で一気に凍らせる。
「“Hindrance Ice Statue(邪魔な氷像)”」
ダークロードに向かって横薙ぎに一閃。しかしハインズの炎魔法で瞬時に溶かされ脱出された。
そのとき俺は最後までハインズが邪魔になると察知した。
そして、ダークロードは足の水分までも氷結していたのを急速に溶解させたため
ハインズの治療魔法をもってしてもしばらくは動けなくなるまでの重症。
動けないダークロードが足手まといになり救出したりなんだりで動きが遅くなるはず。
そして俺は自身の真っ白なニットについている缶バッチに
氷魔法を閉じ込めて、裏についているボタンを押してほおり投げた。
5秒間だ。その後に雨は降る。
その間、スピードが無いがパワーはある、拳を開いて立てが突っ込んできた。
ここに居たら奴は雨に当たらない。だがら吹き飛ばすために氷・炎・雷の順で魔法を発生させた。
大きく斧を振りかぶって目前まで迫ってくる拳を開いて立て。
そこに俺が下段から上段に一閃。俺の剣が奴に触れる直前で爆発を起こす。
「“Salamander Claw”(火竜の爪)”」
リバウンドで俺も吹き飛ぶが、離脱もかねてで一石二鳥。
奴の上半身は裸だったので直撃を受けた胸から腹は真っ黒にこげて肌は焼け爛れていた。
気絶したのだろうか、吹っ飛んで倒れて起き上がってこない。
心臓近辺だったので死んでしまったのかもしれない。これで足手まといが二人。
しかし、ハインズは“ミスティックドア”で二人を避難させていた。
そして雨は降る。
ガッチガチに凍った千本の矢が降っていた。
全員に礫として当たる数十秒前に炎・雷の順序で魔法を発動させ、あたり一面に撒き散らす。
「“King Dragon Breath(竜王の息)”!」
俺の掛け声の直後、落ちてきた矢が全て爆発を起こした。
爆煙があたりを立ち込めた。三人の姿を覆い隠す。しかしそれはすぐに吹き飛んだ。
あたりに黄色いキラキラしたものが輝いていた。
やばい!そう思ってももはや手遅れ。
『カチン!』
ハインズの魔法による着火音が酷く耳に残った。
俺は防御魔法“ブロッキング”を使う事にした。
“ラッシュ”を使って一瞬で間合いを詰めても、どうせ問題のハインズが
属性魔法防御の“エレメントレジスタンス”を使っていて
蚊ほども痛く無くなった爆発の中に自ら身を留めている。
俺は吹き飛ばないためにも“スタンス”をかける。
間もなく、ものすごい爆発が俺を襲った。
何も無いこの場所だから障害なく真っ直ぐ突き進む。
しかし、この爆煙が晴れる前に奴は命を落とす。
俺がスキルを発動させんとしたその時だった。
だが、ハインズの魔法が一斉に花を咲かせる。
左右には火の魔獣“イフリート”と氷の魔獣“エルクィネス”、
火の悪霊“ファイアデーモン”と氷の悪霊“アイスデーモン”。
上下からは“メテオ”が降り注ぎ、地面からは“ブリザード”が俺を突き刺そうと次々に生える。
正面からは聖竜“バファムート”が突っ込んできている。
「うじゃうじゃうるさい奴らだ!」
俺は“プレッシャー”を発動させて彼らの防御を脆くした。
俺は一言叫ぶと二言目を間髪いれずに叫んだ。
「全てを砕け!炎・氷・雷・聖“セングチュアリ”!」
全ての属性魔法が剣を金の金槌とし、それを俺が振り下ろす。
強烈な波動と共にでる四色の輝きは、襲い来る全ての技を粉々にして
ハインズ達にも襲い掛かる。
「まだだ!“モンスターマグネット”」
言っている途中にすでにラッシュで高速で近づいた。
予想通りハインズがこちらに引き寄せられてきている。
「ぶっ飛べ!ブレスト!」
掛け声と共に剣には高圧縮された鋭い風が付き纏った。
「ぐ……あぁぁぁあ」
ハインズのうめき声。奴は真っ二つになって吹き飛んだ。
あとはただ一人だ。そう思ったとたんであった。
ダークロードがいつの間にか無理して来ていたらしく、
ハインズを磁力からのがさんとばかりに突き飛ばそうとしたようだ。
しかし願いはかなわずハインズ共々真っ二つ。
彼らは光り輝き天に昇っていった。
「それすら……フェイクなんだがな」
ダークロードの声。背後をまた取られていた。
体は“アンブッシュ”で隠れる事から開放された弟子が取り付いていた。
奴はすばやく短剣“ダークロード”を抜くと俺の首筋に入れようとした。
俺の首に薄く切り傷が入ったとたん……だった。
ダークロードの腕がものすごい勢いで弾んで、吹き飛んでいた。
「ぐ……おぉぉぉぉぉおお! お……己ぇええ!」
俺が発動させておいたのは“パワーガード”。攻撃の勢いの分をはじき返す。
腕が吹き飛ぶ勢いなのだから、ものすごい量のスキルを重複させていたのだろう。
気合の掛け声と共に弟子達を“プレッシャー”で弱らせ、弾き飛ばした。
「お前は俺を倒すために、ハインズを殺したのか? ひでぇ奴だ」
そして“邪魔な氷像”で今度こそ全身凍らせる。
「ぐ……ぐぉおおぉぉぉおおああぁあ」
全身が凍っていく痛みと怖さに苛まれながらダークロードは氷像と化した。
そして、俺は割った。
ガキンとガラスが割れるような音だった。
「うおおおおおおおおああああああ!!」
ものすごい大声が聞こえたと思ったら、ダークロードと一緒に戻った
拳を開いて立てが突っ込んできた。
“バーサーク”を発動しているようで突っ込んでいる間も両手に斧を持って振り回す。
その姿はまるで阿修羅。しかし、めちゃくちゃに……などは取るに足らない。
「知ってるか! 拳を開いて立て! 地竜の足踏みは大地を割るんだぜ!」
うなり声を上げて突っ込んでくる。もはや聞いていないのだろう。
「くらえ! “Ground Dragon Step(地竜の一歩)”!」
先ほどから多用している爆発で大地を割った。
地割れに足をとられた拳を開いて立て。
しかし、彼もまた爆発を起こし、爆風で離脱すると、“シャウト”を発動させてきた。
イエティにでも殴られたようなものすごい衝撃が俺を襲う。
動けない。体が動かない。ビリビリと麻痺しているとでも言うのか。
「死ねぇ! サクリファイス!!」
なぜ全力で奴は動けるんだ?
そう思ったとき、奴の周りのそれぞれの“ダークスピリット”の存在に気がついた。
“ダークスピリットヒール”で回復してやがったのか……。
奴の二つの斧が、一気に振り下ろされたそのとき、シャウトが解けた。
「うおぉあぁあああぁ!」
思いっきり体をのけぞった。奴の斧一本は俺の頬をかすった。
「よ……避けられただと?」
しかし、傷口の周りは火傷していて、さらに凍り付いていた。
奴の斧の一本は俺の“パワーガード”で粉々になっていた。
“サクリファイス”を放つと体全ての筋肉が数十秒間麻痺する。
そしてそれは、俺にとって十分な時間だった。
ドガッと一発蹴りを入れた。それだけだったが拳を開いて立てには十分すぎるダメージだった。
バタンと倒れると、そのまま光の粒子となって天に昇っていった。
「今度こそ……あと一人だ」
そう呟いた。睨んだ先には悲しそうな顔をするヘレナが弓を引いた姿勢で止まっていた。
お前は……俺を討たないのか?何故先ほどからヘレナの攻撃が無かったのか戸惑った。
そんな時、彼女は言った。
「貴方は……やっぱり同じなんですね」
何と何が同じなのか。これが無いから意味がわからない。だから二の句を待った。
「私と、そして彼と」
まだわからない。何が同じなのかがわからない。
ヘレナは自分の耳に手をやった。その耳はエルフ達が持つ先端が延びている耳。
しかしそれはぼろぼろと崩れ去り、代わりに人間型の耳が出てきた。
「ま、まさか――」
俺は声を漏らした。そして
「私も現世から来た人間でした。
そして自分より生きて欲しい人が居ました」
「そして、俺と同じことをやったのか?」
「そうです。
しかし、この世界では自分の欲の為に生きるしかありません。
たとえ家族でも、他人なのです。
自分が現世で生きたいから、戦うのです」
語りかけるような落ち着きを払っていた声が、いつの間にか叫び声に変わっていた。
「でも、そんな事に苦悩する人間なんてすごく、すごく少数です。
他人なんて関係一切無いんですよ。
自分だけならいいんです。
だから……」
ヘレナは必死に話を続けようとする。
「あなたも、あなたもそう考えてしまうべきだった。
割り切る、捨てる、そういう心を持つべきだった。
私みたいな人は、これ以上居て欲しくない。
そして、この世界では必要とはしていない。
自分はまだ生きたい。そういう未練の心でできた世界。
だから、やさしさのかけらも無い。自己の欲のためだけに存在し 自己の欲のためのルール。
詐欺をしても、盗み取っても、自己のためだから何も裁かれない世界」
「だけど、だけどそんなの“人”じゃないじゃないか! 生物じゃないじゃないか!
お前が言う事が世界の真実なら、この世界の中で友達、愛、そんな言葉は生まれないだろ?」
「友達って、愛って、どうやって成立するかわかりますか?」
急にヘレナの口から落ち着き払った声が出てきた。
「自分が相手の事を好きだからですよ。
相手も自分が相手の事を好きだからですよ。
わかりますよね? だから、この世界は自己のための思いで成立しているんです。
だから貴方は悪い事をしたんです。
この世界での悪い事は、客観的事実で見て、自分がやる事で自分が不幸になる事です。
あなたはこの世界でこの事の業を償わなければなりません。
そう、今眠り続ける“彼”のように、そして私のように……。
全ての人を見守らなければなりません。自己中心的にこの世界で全ての人達が生きられるように」
「そんな……そんなのは……!」
俺は悔しかった。核心を突く、無情なヘレナの一言一言が
意味の無い反撃を成さない台詞を作る。
そして、ヘレナは弓を下ろし、一歩、また一歩と近づいてきて、目の前で足を止めた。
「だから、貴方は教えてあげてください。全ての始まりの地のここで
全ての人に教えてあげてください。この世界のルールを。
私は、途中で道を踏み外さぬように見続けますので」
と言うと、真っ白な宝石を取り出した。その宝石は物凄く小さい。
「この宝石は、呪いがつまっています」
聞いたとたん退こうとしたが何も無い世界にできた自分の影に矢が刺さっていた。
「く……か、“影縫いの矢”だと? そもそも、何で影が……」
何故かできている影を呪いたくなる。動けない。このままだと……。
「私の“フェニックス”が、日差しの代わりです」
言っている途中に頬の傷口に宝石を押し込む。
彼の頬を焼きなさいとヘレナが“フェニックス”に命令すると
“フェニックス”は俺の頬に真っ赤に燃える翼をむけた。
すると宝石が埋まった状態で傷口がふさがる。
「この呪いは、この場所から出るとペットになるという効果があります。
さらに、貴方のもつ魔力を全て封印する力もあります。
それと、貴方のその伝説の剣をもってしても宝石は取り出せません。
それは貴方に根を生やすので。壊れても、貴方の生を吸い取って修復します」
と言い残し、ヘレナは踵を返して帰ろうとする。
「その矢は、時期に朽ちます。仕事、頑張ってください。
たびたび“私達”が見に行きますから」
そしてヘレナはこの場所から居なくなった。そして、影も。
だけど俺は――。